もし中学生の子どもから、
「県外の強豪校に進学して、本気で甲子園を目指したい」
と言われたら。
あなたなら、すぐに「行っておいで」と言えるでしょうか。
我が家には、本気で甲子園出場を夢に、県外の高校へ野球で進学した息子がいます。
いわゆる「野球留学」です。
3年前、息子からその思いを聞いたとき、私はすぐに賛成することができませんでした。
「行かせてあげたい」
でも、
「本当に行かせて大丈夫なの?」
その間で、何度も揺れました。
応援したい気持ちとは別に、親にはいくつもの現実的な不安が出てきます。
その中でも、いちばん現実的だったのがお金でした。
我が家の場合、3年間でかかったお金は約500万円でした。
入学時に約88万円。そのあとの3年間で、約412万円です。
でも、送り出す前の私は、この金額を知りませんでした。
調べても、どこにも書いていなかったからです。
この記事では、実際に息子を県外へ送り出した経験から、次のことをお伝えします。
- 野球留学を決める前に、親が考えておきたいこと
- 「行かせたい」と「3年間支えられる」の違い(費用の内訳と総額)
- 実際に離れて暮らして初めてわかったこと
- 3年間を終えた今、野球留学をどう考えているか
野球留学を勧めるための記事ではありません。
「行かせてあげたい。でも、本当にこれでいいのかな」
そんなふうに迷っている親御さんが、親子で進路を考えるときの一つの判断材料になればと思っています。
① 野球留学を決める前に、親が考えておきたいこと
息子が野球を始めたのは、小学2年生のときでした。
そこから生活はどんどん野球中心になり、中学では硬式野球チームへ。
そんな息子にとって「高校でも野球を続ける」ことは、ごく自然なことだったのだと思います。
そして、その先にあったのが、
「甲子園を目指せる高校で野球がしたい」
という夢でした。
進路を考える中で、中学時代に所属していたチームから県外の高校を紹介していただき、その後、高校側からも声をかけていただきました。
「自分を見てもらえた」
「ここで勝負したい」
息子の気持ちは、どんどんその高校へ向かっていきました。
一方、親の私は不安ばかりでした。

レギュラーになれなかったら?



いや、絶対にレギュラーになる。



洗濯も自分でするんだよ。
生活のことできる?



できる。絶対できる。



勉強との両立は?



勉強も頑張る。
今振り返ると、話し合っているようで、ずっと平行線なのがわかります。
でも、それもそのはず。
まだ15歳。
親元を離れた生活も、強豪校での競争も、思うようにいかない日々も、まだ経験したことがありません。
息子にあるのは、
「そこで野球がしたい」
という、ただただ真っすぐな気持ち。
一方の私は、
「本当に大丈夫?」
と、何度も息子に問いかけていました。
私は息子の覚悟を確認したかったというより、
「大丈夫だ」と思える私の安心材料を探していたのだと思います。
- レギュラーになれる保証なんてない。
- 甲子園に行ける保証もない。
- 思い描いた3年間になる保証もない。
そもそも、「大丈夫」がわかっているものを挑戦と呼ぶのでしょうか。
「本当に大丈夫なのか」ではなく、
「思い通りにならなかったとしても、この挑戦を応援できるのか」
本当に問われていたのは、
送り出す親である、私たちの覚悟だったのだと思います。
何が待っているのかは分からない。
それでも、自分が選んだ場所で挑戦する。
そして、うまくいかなかったときも含めて受け止める。
我が家はそこまで考えて、ようやく
息子とともに私たちも挑戦しよう
そう思うことができました。
②「行かせたい」と「3年間支えられる」は別問題
親として「行かせよう」と覚悟を決めても、それだけで野球留学ができるわけではありません。
次に向き合ったのが、
お金の問題でした。
野球留学で考えておきたい費用
ここに書いたのは、我が家が実際に支払った金額です。
学校や寮の条件、住んでいる場所からの距離によって大きく変わります。
息子が入学した2024年当時の金額なので、目安として見てください。
入学時にかかったお金
| 項目 | 金額 | メモ |
|---|---|---|
| 入学検定料 | 3万円 | |
| 入学金 | 5万円 | |
| 制服(冬、夏)・体操服 | 約10万円 | |
| 文具用品(パソコンなど) | 約15万円 | |
| 寮の入居費用 | 約5万円 | 衣装ケース・布団・日用消耗品・他 |
| 野球道具一式 | 約5万円 | グラブ・バット・スパイクなど |
| 野球部規定物品 | 約20万円 | 練習用・練習試合用・試合用ウエア、 チームTシャツ、バッグ、帽子など備品 |
| 野球部規定物品(親用) | 約5万円 | チームTシャツ・帽子・防寒具など |
| 引っ越し・移動 | 約15万円 | 交通費、入寮前宿泊費など |
| 通学用自転車 | 約5万円 | |
| 入学時の合計 | 約88万円 |
3年間かかり続けたお金
| 項目 | 月・年あたり | 3年間で |
|---|---|---|
| 寮費(食費込み) | 月5.3万円 | 約190万円 |
| 学費 | 月3.9万円 | 約140万円 |
| 部費 | 年9.4万円 | 約28万円 |
| 遠征費 | 年4〜5万円 | 約15万円 |
| 野球用品の 買い替え | 年3万〜5万円 | 10〜15万円 |
| 帰省の交通費 | 年2回・ 1回4.5万円 | 27万円 |
| 3年間の合計 | 約412万円 |
入学時と合わせると、3年間でかかったお金は約500万円でした。
金額そのものより、「毎月いくら出ていくか」を3年分で見ておくことが大事でした。
入学時にまとまったお金を用意できても、続かなければ意味がないからです。
なお、この金額に親が応援に行く費用は含んでいません。
さらに我が家の場合、考えておかなければならなかったのが、親の応援にかかる費用でした。
「私は、きっと試合を観に行きたくなる」
できるだけ息子の野球を見たい。
そう思う自分の性格は、行く前から分かっていました。
となれば、息子にかかる費用だけではありません。
親が応援に行くための交通費や宿泊費も必要になります。
そこで大きく関係してくるのが、
「距離」です。
寮までどれくらい離れているのか。
一度会いに行くのに何時間かかり、いくら必要なのか。
試合を観に行くために仕事を休む必要があるのか。
距離が遠くなれば、お金だけでなく、時間や働き方にも影響します。
そして我が家には、息子以外にも子どもがいます。
当然、その子たちの生活や教育にもお金は必要です。
だから野球留学を決める前に考えたのは、
「入学時にいくら必要か」ではなく、「家庭として3年間支え続けられるか」
実際に3年間経験してみると、入学前には想像していなかった出費もたくさんありました。
親の応援にどのくらいかかったのかは、別の記事で詳しくまとめる予定です。
③ 実際に離れて暮らして初めて分かったこと
野球留学を決める前から、
「離れて暮らすんだから、今までのようにはいかない」
ということは分かっていたつもりでした。
でも、実際に始まってみると、
「分かっている」と「経験する」は、まったく違います。
携帯電話があるから、いつでも連絡できる。
そう思っていましたが、息子から電話がかかってくることはほとんどありません。
学校の成績も、学校行事も、普段どんな高校生活を送っているのかも、思っていた以上に分かりませんでした。
そういえば私は、制服を着て学校にいる息子の姿を知らないまま、高校生活の終わりを迎えようとしています。
生活の中でも、
「こんなことも教えていなかったんだ」
と気づくことが何度もありました。
離れて初めて気づいた「教えていなかったこと」
ATMの使い方をきちんと教えていなかったり。
ユニフォームの頑固な汚れを落とそうと熱湯を使い、汚れが落ちるどころか、ユニフォームがくちゃくちゃになって使えなくなったこともありました。
思わず、
「もう、何してるんよ」
と言いたくなるようなこともありました。
これまで親がやってきたことを、失敗を繰り返しながら本人が自分でやっていくしかありません。
そして、自転車で移動中に車との接触事故に遭ったときには、もっと大きな「距離」を感じました。
そんなときでさえ、
「ちょっと待ってて。今から行くわ」
ができない。
それまで親が当たり前のようにやっていたことを、少しずつ本人に任せていくしかありませんでした。
野球留学を決める前は、
「強豪校でやっていけるのか」
「レギュラーになれるのか」
「甲子園を目指せるのか」
そんなことばかり考えていました。
でも実際に始まってみて分かったのは、
野球留学は、野球だけの話ではなかったということです。
15歳で親元を離れ、自分の生活を自分で回していく。
そして親もまた、
今までのように手を出せないことを受け入れていく。
子どもが親から離れていく3年間であり、
親にとっても、少しずつ子どもから手を離していく3年間だったのだと思います。
④ 3年間を終えた今、野球留学をどう考えているか
そして3年が経ち、息子の高校野球は終わりました。
もし今、
「中学3年生のあの日に戻っても、もう一度送り出しますか?」
と聞かれたら、私は、
「送り出します」
と答えます。
一番の理由は、とてもシンプルです。
それが、息子自身が選んだ挑戦だったからです。
甲子園という夢は叶いませんでした。
思い描いていた通りの3年間になったわけでもありません。
それでも、自分で選んだ場所で挑戦したからこそ、
「なぜ届かなかったのか」
「これからの自分には何が必要なのか」
を、自分自身のこととして考えることができたのだと思います。
これは、親がどれだけ言葉を尽くしても教えられないことだったと思います。
甲子園に行けたから正解。
レギュラーになれたら正解。
夢が叶わなければ失敗。
そんなふうに、結果だけで15歳のときの選択に○や×をつける必要はないのだと思います。
息子がこの3年間を、これからの人生にどうつなげていくのか。
私たち家族も、この経験をこれからどう生かしていくのか。
その先まで含めて、初めて答えが見えてくるのかもしれません。
野球留学が「是」だったのか「否」だったのか、その答えは3年間だけでは決まらない。
自分たちが選んだ道を、これからの人生をかけて「是」にしていくものなのかもしれません
だから、もしもう一度あの日に戻ったとして、
息子が
「本気で甲子園を目指したい」
と言うのなら。
私はきっと、笑顔で言うと思います。
「挑戦してきなさい」


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